1.量子情報処理とは
量子情報処理とは、通常のコンピュータで用いられている0か1のどちらかで表される2準位系(ビット)ではなく、0と1を確率的に重ね合わせた量子力学的2準位系(量子ビット)を用いて情報処理を行うことです。ある特定のアルゴリズムにおいて、量子情報処理は通常のコンピュータでの情報処理に比べ高速な演算が可能であることが理論的に示されており、これまでに様々な実験が行われています。
2.イオントラップによる実現
量子情報処理を行う量子コンピュータを実現する候補はいくつかありますが、その中でもイオントラップを用いた実現方法は、量子ビットが量子的な情報を保持する時間であるコヒーレンス時間の長さ、また、量子ビットの状態を変化させた際、行いたかった操作に対して実際に行われた操作がどの程度忠実であるかを示すフィデリティの高さから、有力なものの1つとされています。イオントラップは、低温まで冷却したイオンの内部状態を量子力学的2準位として扱い、レーザー光によって内部状態を操作することによって量子情報処理を可能にしています。
3.実現に向けた課題
上記のように、量子コンピュータの実現に向けて期待されているイオントラップですが、実用的な計算で通常のコンピュータよりも高速な演算を行うためには、コヒーレンス時間をさらに延ばすこと、また、多数の量子ビットを用いて情報処理を行うことが必要です。しかし、イオントラップ電極の電圧や外部電場のゆらぎ、また情報処理を行っている間はイオンを冷却できないことなどが状況を困難にしています。
4.協同冷却
上記の課題を解決する手法として、協同冷却と呼ばれる手法が挙げられます。この手法は、量子ビットとして用いない異核種のイオンを混ぜ込み、情報処理を行っている間もこのイオンを冷却し続けることによって、周囲にある、量子ビットとして情報処理を行っているイオンも冷却するという手法です。これまでに様々な核種のペアによる協同冷却の研究が行われています。
5.研究内容
長谷川研究室では、協同冷却を行う核種のペアとして近年注目されている、40Ca+/88Sr+ペアに着目しています。しかし、この核種のペアによる協同冷却を行った研究は多くなく、実際のイオントラップの中でのこれらイオンの挙動を解析することが重要です。そのため我々は、実際に40Ca+/88Sr+をイオントラップで捕獲し、その挙動を解析することを目標に研究に取り組んでいます。